線維腺腫が私に残したもの

クリマガ

線維腺腫

 胸に波を描くように塗布される、人肌よりほんの少しあたたかいジェル。あらゆる方向から超音波器具をあてられるたびに画面に映し出されるのは、うようよと波を打つように動く私の体の内部。そして左胸の左側を器具が通ると突如あらわれる、ドーム型をした黒い空洞。

 私は年に1度「線維腺腫(せんいせんしゅ)」の検診で、必ずこの光景を目にしている。

しこり発見のきっかけはコンプレックス

 はじめて線維腺腫の存在を知ったのは、高校生のころ。お風呂に入っていた私はコンプレックスである小さな胸を見ながら「ちょっとくらい大きくなんねえかな」と、バストをマッサージするように体を洗っていた。すると、ふと左胸の左側に、ゴロっとした何かがあった。

 祖母が乳がんにかかっていたこともあり、すぐに母へ相談し、乳腺外科を受診。触診と超音波検査後に言われた症状名が、線維腺腫だった。

 線維腺腫は10代の女性でよく見られる症状で、癌化する可能性がほぼない良性のものだという。担当の先生からは、定期健診での経過観察でもいいとは言われた。

 しかし線維腫瘍には、外科手術を必要とする葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)というよく似た症状があるらしい。しこりのサイズが3cmまで大きくなると、超音波検査だけでは2つの症状を区別できないと言われた。

 しかも葉状腫瘍は、再発しやすく悪性だった場合転移の可能性もある症状。私のしこりの大きさは2㎝だったが、今後大きくなる可能性もあっため、大きな病院で精密検査をすることを進められた。

 紹介先の病院で受けた精密検査は、針生検。太い注射針でしこりの細胞を採取し検査するものだった。事前に痛いと聞いていたものの、「乳がんかも……」という不安が勝ったせいか、痛みを感じる間もなく検査は終了。検査の結果、やはり私の胸にあるしこりは、線維腺腫であることが証明された。

 良性で医師からも経過観察でもいいと言われた、私の線維腺腫。しかし私は、体にメスを入れてとってもらった。

未来の不安をなくすための手術

 経過観察でもいい線維腺腫を取った理由は、この先の人生で心配事となることを減らしたかったからだ。

 ただこの時の私は、手術を受けた経験がなかった。取らなくてもいいと言われているものをあえて取る選択が正しいのか、不安もあった。その不安は「同じ世代くらいの子で(線維腺腫を)とる子もいる」という、あくまで事実に基づいた先生の意見が拭ってくれた。

 手術の前には、乳がん検診といえばな“マンモグラフィ”も体験した。これは超音波検査では発見が難しい「石灰化の有無」を確認する工程。がんが増殖時に分泌液を出したり壊死したりしている細かな粉のようなものを見つけるために行うものだ。

 マンモグラフィはどんな大きさの胸でもつかめるが、これまた痛いと聞いていた。ただ私の胸は、コンプレックスを抱えマッサージにすがるほどのつつましいもの。ギューッと機械に挟まれた瞬間、「私の胸もちゃんとつかめるんだ!」と感動が勝った。

 後日、手術は無事成功。麻酔をかけられた瞬間に意識を手放したおかげで、起きた時には、入院前に意気揚々と大人買いしてベッドの横に積んでいたマンガが目に入った。切られた場所の痛み、点滴で身動きに制限があること、味のない病院食以外は何不自由なく入院ライフを満喫。るろうに剣心の追憶篇と銀魂の紅桜篇は何度読んでもいい話だった。

今もなお残る左胸のしこり

 退院した私に待っていたのは、3ヶ月に1回の経過観察。行くたびに、人肌より少しあたたかなジェルをぬるっと塗りたくられ、超音波で自分の胸の奥を覗き見る。

 残念というかしょうがないと思うが、実は手術後の私の胸には、ほんの少しの線維腺腫が残ってしまった。未来の心配を残したくなくて手術をしたのに、しこりは2cm程の大きさをキープして、10年以上私の胸に居続けている

 しかし結果的に、線維腺腫が残っていてよかったかも、と思う自分がいる。もしこれがキレイに取れていたら、経過観察の重要度が私のなかでどんどん下げられ、そのうち行かなくなっていただろうと思うからだ。

 今は大きさも2cmから大きくならないこともあり、経過観察は年に1回になった。あくまで線維腺腫の経過観察ではあるものの、異変があったらすぐに気がつける、また自分の体に関心を持ついい機会なので1年に1回のペースを保っている。

普段から自分の胸と対話する時間を

 この“1年に1回のペース”が乱されることが、過去に2回あった。それは北斗晶さんと小林麻央さんが乳がんにかかった時だ。病院に予約連絡を入れると普段なら「明日でもいけますよ」みたいな感じなのに、「来月、土日だと再来月しか……」と案内されたのだ。有名な方が乳がんにかかった事実は、こんなにも多くの人に影響を与えるんだなあと感じたのを覚えている。

 1年に1回の定期健診で、乳がん検診を受けている人は少なくないだろう。ただ普段から触診している人は、そう多くはないと思う。

 実際に私が大学生のころ、胸のしこりを取ったことを話すと「え?自分で胸を触ったの?」と驚かれたことがある。胸はセックスシンボルとして捉えられることもあるため、それを自分で触ることに恥ずかしさを覚える人、特に若い人ならそう思ってしまうのもなんとなくわかる気はする。しかし私の触診習慣は、恥ずかしさを帯びた行為なのかなと疑問に感じてもいた。今は、ただ触るだけで異変に気づけるなら、恥ずかしいとか言っていられないと、強く思っている。

 乳がんは、女性の11人に1人がかかっている病だ。決して他人事ではない。だからこそ日ごろから自分の胸を触って様子を確認することがとても大事ではないだろうか。

 またできる限り定期的に検診を受けることも大切だろう。触診では気づけない異変に気づけるだけでなく、純粋に自分の胸や体にじっくり向き合う時間が取れるからだ。

 ちなみに今回の診察代は、1,270円。1,000円台で自分の体を知り、かつその先の安心を買うと考えれば、めちゃくちゃコスパが高いと思う。(受診する病院や診察内容、先生によって診察方法・診察代は変わる)

 胸のしこりという異常は、傷みなどの形でなかなかアラートを出してくれない。気付いたときには、もう進行が進んでいることもある。そうならないためにも日常的な触診と、定期検診は続けていきたい。

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