多分、痔。

クリマガ

多分、私は痔だ。
多分、切れているほうの。
多分、「さっと塗ったよ」のほうの。

初めてこの兆候が出たのは、2014年の12月24日。腸からの緊急アラートを受け取った私は、コンビニのトイレに駆け込んだ。

いつも通り下腹部に集中していきむ。何かが抜けたと思ったのも束の間、いつもとちがう事態が起こったのだ。

「プチッ!」

服でも裂けたかと思ったが、即座にお尻の門付近に痛みが走ったのだ。

とりあえずウンをつけたままでいるわけにはいかないので、トイレットペーパーでふき取る。さらに衝撃が走った。

血がついているではないか!
しかも便座が事件現場のように鮮血で染まっているではないか!

生理は先日終わったばかりだし……。なにより生理とは違う痛みを伴っているし……。

とはいえ生理かもしれないことを懸念し、パンツにナプキンをつけ当時勤めていた会社に出勤。そしていつものイスにこしかけた瞬間、再び衝撃が走った。

お尻の門が痛い……!
ズギューン!!!と脳天に突き刺さるような痛さだった。

もうこれは認めざるを得ないのではなかろうかと思いつつも、なんとかその日は空気イスを挟みながら仕事を終え帰宅。とりあえず身を清めようと風呂に浸かり、念のため「なんかあった時は塗っとけ」のオロナインをお尻の門に塗りたくった。

翌日は、平穏が訪れていた。そう、トイレに行くまでは。

割と毎日快便の私は、普段通り便座に腰かけ軽くいきんだ。するとまたお尻の門から脳天に突き刺さる痛みが走る。まるでロンギヌスの槍に貫かれたような感覚だ。刺されたのは肛門だし、そもそも貫かれたことはないのだが。

そして私は悟った。
「多分、痔。」だと。

時は12月25日。恋人たちがイルミネーション輝く街中を楽しそうに歩く中、お尻の門に一抹の不安を抱えた私は、ドラッグストアに駆け込んだ。そして手に取る「さっと塗ったよ」のボラギノール。

まさかこの軟膏を手に取る日がくるとは。
「さっと塗ったよ」と言う日がくるとは。
そんなことは思ってもみなかった。

思った以上の恥ずかしさがあり、うつむきながらレジへ向かう。するとレジには、超好みのイケメンがいた。

「あの、父に頼まれて……」

聞かれてもいないことを言う、というとんでもない失態を犯す私である。自分用ってバレたにちがいない。ちなみに父は、昔イボのほうをやっている。

とりあえずボラギノールから始まる恋なんてものはクリスマスマジックでも起きるわけもなく、うなだれながら帰宅。とりあえず風呂に入り門を清め、買ったばかりのボラギノールを塗りたくる。そして、もはやふて寝をきめた。

初ボラギの翌日は、清々しい朝だった。朝食を食べ、いつも通り便意が「やあ」とあいさつをしてくる。しかしその時の私は、負傷兵(お尻の門限定)。こんなにも嫌なあいさつがあるだろうかと思うほど、その便意に抗った。

しかし生理現象に抗う術もなく、覚悟を決め便座に座る。こんなにもいきむのが怖いと感じる日がくるなんて、思ってもみなかった。

しかしその日の痛みは、脳天までは届かない感じだった。

初めてそこでボラギノールの威力を知った。イケメンから手渡してもらったボラギノール。間接的と見せつつ直接的に自分用だと告げてしまったボラギノール。ケツよりも心のダメージが重かったのがウソのように、晴れ晴れとした気持ちになった。

3日もボラギると、お尻の門は通常運転にもどった。さすがに一度やらかしているので、いきむときにはほんの少しの慎重さを持ち合わせたが、普通に出せるようになった。こんなにも普通にうんちが出せる喜びをかみしめたことはないだろう。

 

私は、痔を自覚した。

しかしこれは自己診断でしかない。Twitterなら病院で確かめてもないのにと言われかねない気もする。

ただ、肛門に切れ目が入ったのを、医療人とはいえ他人に見せるのは、とてつもない羞恥だ。「背中の傷は剣士の恥だ」ならぬ「肛門の傷はクリスの恥だ」。何も、うまくない。

一度手術を受けた時も「うんこが出てなかったら浣腸する」と言われ、トイレに2時間こもった私だ。今となってはおそらく指を突っ込むタイプの浣腸ではなかったと思うが、当時の私は「どんな理由があろうと、ケツの穴の切れ目を他人にみられるなんて」と思ったのだろう。

とりあえず肛門を見られることに異常な羞恥心を持つ私は、病院に行けずじまいなのだ。

しかし先日テレビで、大腸がんの特集を見た。大腸がんの再検査を促されつつも行かない人の理由の1位が「痔だから」だった。しかもその痔は自己診断によるものだった。私ももしかしたらそうかもしれないと思うと、少し怖くなった。

とはいえ、お尻の門の切れ目を見られる羞恥心に打ち勝つには時間がかかりそうだ。

だから、教えてほしい。
肛門科にかかる勇気は、どうすれば身につくのかを。

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